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小説の創作と日々思うことをつらづらと。
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 マイケルという名前は正しくない。正確にはマイケル三世。つまりは三代目ということだ。いつも笑顔で僕を迎えてくれる優しい猫だ。
 
 「えっ?冗談でしょ?」
 母は泣いていた。携帯電話越しに伝わる、時々こもるような声。呼吸と同時に少し切れる単語。僕は知っている。息を吐く度に、感情が昂って泣き出しそうなのだ。それを必死に抑えようとすると、こんな途切れ途切れの会話になってしまう。大人でも、こんな泣き方するんだなぁと変な感想が浮かぶ。
 「そう、仕方ないよ。うん。」
 立派な大人はこんな時、どうやって慰めるのだろう。薄っぺらな言葉でしか、母を慰めることのできない僕はダメな奴だ。母は堪え切れないのだろう。呼吸が荒くなってきている。まるで三歳児の子供が話す会話。なんだったかな。中学校の国語教師が言っていたのだったかな。分節ごとに『ね』を付ける区切り方。まるで言葉を覚えたての子供が必死に伝えようとしているみたい。そう、馬鹿にしていた気がする。
 「わかった。うん、もう切るね。ごめんね。」
 貰い泣きしてしまいそうだったから、僕は電話を切った。携帯の画面が変わるのを確認してから投げ捨て、ソファにゆったりと体を投げる。クッションが反発する音。皮膚とソファの革が擦れる音。液体が、その革を叩く音。
 
 
 「白血病、なん、だって。病院で。お医者さんが、言って。それからも、通ったんだ、けどね。けど、もう、ダメなんだ、って。」
 「一回、行くたびに、とっても、お金が、ね。裕福な、お家だったら、まだ、治療、できる、だろう、けど。」
 「病気で、死ぬのが、こんなに、こんなにつらい、なんて。お母さん、初めて、だから。もう、猫は、飼えないわ。」
 
 
 猫を飼うことにいつも反対していた母。猫が好きだからこそ、いつか来る別れが苦しくなるから、母は反対していた。結局、専業主婦の母が一番多く猫と時間を過ごすのだ。それだけ深い愛情が生まれるものだ。そこから反転するものも深く重いのだろう。
 そんな母に、決断させてしまったことが申し訳なく、そして辛かった。
 
 
 あれから何年も経ったが、母のことを思うと自分が新たに猫を飼うということがどうしてもできなかった。目の前のディスプレイでは数百枚の画像が三秒ごとに代わる代わる、変化していく。
 
 
 マイケルという名前は正しくない。正確にはマイケル三世。つまりは三代目ということだ。僕だけのために笑い続ける、優しい猫だ。
 
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