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小説の創作と日々思うことをつらづらと。
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 一人ぼっちの教室は少し寒々しく感じさせる。一番に登校した時よりも、みんなが下校した後の教室の方がどこか寂しさを抱かせた。それは始まる前ではなく、終わった後だからなのかもしれない。役目を終え、日が沈み、月に照らされ、朝焼けと共にまた同じサイクルが始まる。教室は孤独だ。
 廊下から靴音が聞こえ、それがどんどん近付いて来るのがわかった。
「おっ、ここにいたんだ。」
 同じクラスの斎藤雄也。中学から一緒で、一年目が同じクラスだったことからお互いを知り、志望校が同じということで関係が深まった。中学が一緒の奴は雄也だけだったから、周りみんなが初対面で苦しい中を、寄り添うように群れるようになった。親友という言葉に見合う人間はと訊かれれば、真っ先にこいつを思い浮かべるだろう。
 「どうした。なんかセンチな雰囲気出してっけど。まだ十月だぜ?」
 窓際の自分の席に近づいて来た奴は、机の端っこと前の席とその椅子の三点に体重をかけながら話しかけてくる。三年の十月。たいていの人間が大学入試に向けてスパートをかけている中だが、目の前のジャージ姿でタオルを巻きつけた雄也は少数の就職組だ。家庭の事情でという人間もいるが、雄也は違う。中学の時からやりたい仕事を見つけ、高校三年になったらあっさりと就職口を手に入れた。受験で悪戦苦闘している連中を尻目に最後のモラトリアムを満喫しているというわけだ。
 「学校にも来ないで予備校に登校している奴もいる中で、外見て呆けてる時間があるなんて余裕だな。」
 「余裕なんてないさ。疲れて息切れしちゃったから束の間の休憩ってやつだよ。」
 余裕がないのは事実だった。夏から受験モードに入ったとはいえ、模試の成績はそれほど上がっていない。目に見える結果が出ていないから意欲が出ない。ゆえにより一層疲れを感じてしまうという負の連鎖に落ちてしまったのはどこかで自覚していた。やらなければならないのはわかっているが、やはりどこかで今を楽しんでいない虚しさを抱いていた。苦しくて誰かに助けを求めたいくらいだが、雄也にはそんなことはできない。今自分がしていることは雄也が手放すモノを、未練がましく握ろうとすることなのだから。
 「休憩ねぇ。まぁそれもいいけどね。おっ夕日だ。」
 声に合わせて覗いた空には、鮮やかに映える夕日が広がっていた。オレンジ色に染まる太陽が教室中をほんのりと温かく染めていく。窓ガラスや窓枠、机の脚までも光を反射して輝いた。黒板には光で線が引かれ、くっきりと明と暗が分かれている。
 「綺麗だな。」
 「そうだね。こんなに綺麗なのは初めてかも。」
 「大げさだな。」
 雄也に軽く笑われてしまった。でも本当に綺麗だった。生まれてから何度も見てきた光景なのに、なぜこんなにも綺麗に思えるのだろう。
 「大学、東京のとこなんだって?」
 「うん。受かれば春から一人暮らしって、まだぴんとこないけどね。」
 「受かるよ、お前なら。」
 「そうだといいけどね。」
 「手、出してみ。」
 不思議に思いながらも言うとおりに右手を差し出すと、ぎゅっと両手で握られた。
 「力わけてやるよ。縁起いいぞぉ。すでに勝った人間の力なんだから。」
 「入社試験で力使い果たしてたりしてね。」
 「はっ、馬鹿言ってんじゃねーよ。」
 温かかった。窓から降り注がれる日差しよりも温かく、それでいてしっかりと脈を打っているのがわかった。人の手はこんなにも温かいものなんだな。
 「卒業して、お互い離れたって、今は携帯もあるんだし簡単に連絡取れるんだぜ。疲れたら戻って来たって良いんだから。大学って休み長いらしいし。」
 声を出せなかった。声を出したら一緒に涙まで流れてしまいそうで。心の中にある不安を見透かされた気恥ずかしさはなかった。言葉が持つ、確かな温かみで心が揺らめいたのだ。
 「俺たち、友達だろ?って、泣くなよ。」
 涙のせいで雄也の顔が靄にかかったみたいに不透明だった。それでも笑っているんだと思った。声に出して返事する代わりに雄也の手を両手で強く握り返した。骨の感触が強く伝わるほどに。強く強く握ったら何かが砕けるのがわかって、温かったものが手を這うように溶け出して目の前で笑っていたはずの雄也がそこにはいなくて、跡には黒いものが残った。
 
 ずいぶんと見慣れてしまった天井には変な模様がある。夢から覚めると、毎度これのせいでこんな夢を見るんじゃないかと思うが寝る場所を変えはしない。煩雑とした部屋に寝るスペースはここだけだ。
 枕元の左にある携帯を手に取りセンターに問い合わせる。受信メッセージがないことを丁寧に告げてくれた。携帯を放り投げたら今度は右にある青色の煙草の箱から一本取り出し火をつける。ゆっくりと吸い込んで紫煙を一直線に吐き出す。指先に煙草の熱を感じる。
 「温かいなぁ。」
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